先進 集落営農法人の取組みについて④

みなさん、こんにちは。「新しい農業のカタチづくり」を目指している椴 耕作です。

前回に続き「農事組合法人 ファーム・おだ(以下、ファーム・おだ)」の特集です。今回は、みなさん興味津々の「特別なお米」(特別栽培米)について、ご紹介させていただきます。

「特別なお米(特別栽培米)」を生産するきっかけとは・・・。

「特別栽培米」とは、一般的な農法より化学肥料50%以下、化学合成農薬50%以下の使用となるように育てられた米のことです。そのため、人の体に優しく、より「安心」して食べることができます。

体にいい「お米」は、お客さまが購入する動機の一つにはなりますが、大きな決め手になるのは、やはり、その「味」でしょう。

「特別栽培米」を始めた目的について、「ファーム・おだ」設立の立役者である吉弘さんは「『美味しい米づくり』と『販売の差別化』だった」とおっしゃっています。

戦後50年近く化学肥料の栽培が続き、米の反収(一定面積あたりの収穫量)は上がりましたが、法人設立当初(2003年頃)は米の味が今一つだったのです。

吉弘さんは、かねてより「農業生産の肝は『土づくり』である」と考えていたことから、その「土」に着目することになります。

「元気で活力ある土」にするには、どうすればいいのでしょうか。

「土づくりの重要性」

イギリスのローザムステッド農業試験場での50年間の試験結果によると、

①化学肥料だけの施用は始めは成績が良い。
②しかし、50年経つと収量は無肥料より低くなる。
③「堆肥 + 化学肥料」が最高の収量を上げる。

③の理由として、「堆肥」は
・化学肥料の持つ悪い面を抑える。
・化学肥料と力を合わせて作物を増収させる。

【出所:「石川県研修会(令和2年3月4日 ファーム・おだのスライド)」】

堆肥(たいひ)とは、稲わらや落ち葉、食品残渣などの有機物を微生物の力で分解し、腐熟させた園芸資材です。

上記のデータで、「堆肥+化学肥料」の状態にすると、より「元気で活力ある土」にすることができ、最高の収量を上げられることが分かりました。

しかし、その「堆肥」をどうやって調達するかが問題です。

画期的!「稲わらと堆肥の交換」

吉弘さんに一つの考えが閃きました。

「稲わらと堆肥の交換」です。

「交換」ですので、ほとんど経費はかかりません。

吉弘さんは以前からよく知っていた大型畜産農家「なかやま牧場:福山」のことが頭に浮かびました。「なかやま牧場」は牛が食べる飼料にこだわっており、良い「稲わら」を探していたからです。

「稲わらと堆肥の交換」が、お互いに「Win-Win」の関係になることが分かると、早速、ファーム・おだから「稲わら」をなかやま牧場へ、なかやま牧場からは「堆肥」をファーム・おだへという「連携」が始まったのです。

このことは、地元のつながりによる共同リサイクルを実現した「循環型の農畜産モデル」になりました。このモデルが動き始めたことで、米の収量が増すようになり、さらに「米の食味」も大幅にアップしたのです。

(下記の「平均反収と一等米比率」の資料参照)

そして、いよいよ「特別栽培米」の生産に取り掛かります。

平均反収と一等米比率

【出所:「石川県研修会(令和2年3月4日 ファーム・おだのスライド)」】

「特別なお米(特別栽培米)」への取組み

堆肥を利用した土づくりを開始し、法人設立5年目(2008年)頃から、肥料と農薬を50%カットした特別栽培米の生産へ取組むことができるようになりました。

米の品質も前掲の「平均反収と一等米比率」の資料を見ていただければ分かるように、すべて1等米になりました。

特別栽培農産物として、広島県が認証する「安心!広島ブランド」も取得できました。

2020年には、厳しい基準をクリアし、米の2品種(「コシヒカリ」、「ヒノヒカリ」)で特別栽培米の認証を得ることができました。

「ブランド米」となると、高い単価で販売することが可能になってきます。

それまでは価格が安い農協出荷を利用していましたが、今では価格が高い業者販売へと切り替えています。

米余りという問題を抱える業者が多い中、「特別栽培米」という理由で非常に有利な販売を実現されており、確実に「収益アップ」へとつなげています。

実は、「収益アップ」については、見落とせないもう一つの取組みがあるのです。

「6次産業化」への取組み

「6次産業化」とは、1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、農山漁村の新たな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組です。

小田地区には、農産物直売所、レストラン(田舎カフェ)、餅・惣菜等の加工所の複合施設「寄りん菜屋(よりんさいや)」が開設されています。

6次産業化で女性の参画(雇用)を得ることができ「ふるさと味セット」等の加工品を製造販売することにより、更なる収益アップにつなげているのです。

何より、自ら生産した農産物、あるいはその農産物を加工したものを直接販売できるところがあるというのは、大変な強味です。

「特別栽培米」の生産につながったのも、地域における6次産業化の取組みと決して無縁ではないと思われます。

これまで、新しい農業のカタチの一つである画期的な「ファーム・おだ」の取組みを紹介させていただきましたが、その考えの根っこには「地域の人を必ず豊かにするんだ!」という強い思いを感じずにはいられません。

それは、いかに地域を守る取組みとはいえ「生産段階から販売を見据え、必ず利益が出る経営体にするしくみの熟考」に注力されていることからも伺えます。

この「ファーム・おだ」様の取組みは、これからの農業をはじめとする地域課題に向き合っていく人々にとって、大きな活路となり、大変な勇気を与えてくれていると思います。

次回予告

4回にわたって「ファーム・おだ」の取組みをご紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか。

次回は、農業ICT管理ツールを活用して、大規模水田事業を営む「鍋八農産」を紹介させていただきます。


農事組合法人 ファーム・おだ さんのWEBサイト → https://farm-oda.com/


執筆者:椴 耕作(だん こうさく)

従事者の高齢化等で存続が危ぶまれる「地域の"農"の活性化」をモットーに、「新しい農業のカタチづくり」を目指す農業経営アドバイザー。活動の一環としてMANDY WORKSで農業や地方創生に関するコラムを発信中!

【資格・所属等】
CFP、宅地建物取引主任者、農業経営アドバイザー、農業簿記検定1級、NIE.E指導委員

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