「ICT管理ツールで効率的な大規模水田経営を実現!」有限会社鍋八農産の取組みについて

みなさん、こんにちは。「新しい農業のカタチづくり」を目指している椴 耕作です。

今回は、農業ICT管理ツールを活用して、愛知県で大規模水田事業を営む「鍋八農産」(代表取締役:八木 輝治 氏)を紹介させていただきます。

とても“Big”な「水田経営体」!

有限会社鍋八農産は、

  • 水稲作業受託 70ha
  • 水稲全面受託 140ha
  • 大豆作 18ha
  • 麦作 40ha

を営む大規模水田経営体です。(数値は、いずれも鍋八農産HPより)

この面積の数字だけを見ても、その“規模感”はなかなかイメージしづらいと思いますが、例えば東京ドームの広さは約4.7haですので、水稲全面受託の140haは東京ドーム約30個分の広さになります!

これだけの広大な面積をたった10人強の社員でこなしているのですから、これまた“すごい!”の一言です。

さらに、その水田等は約2,000カ所に散らばっているのです!

水田のある風景って、どこもかしこも同じように見えますよね?水田に水を張るタイミング等も一緒なので、その風景は輪をかけて似てしまうのは当然のこと。しかも、作業を行うほとんどの水田は自分の所有地ではなく、他の農家さんの所有地なので、初めて行く場所も多く、約2,000カ所に散らばったよく似た水田は、作業者にとってまさに初見殺しと言えるのです。

その結果、何が起こるのでしょうか…?

そう。作業を行う「土地間違い」が起こるのです。

場所はほとんどあっているのですけれども、一つ隣の田んぼを耕してしまったり(?)とかですね。
“間違う”にしても、その作業内容で「間違い度(?)」が変わります。

「耕起」(田んぼを耕すこと)
→本来の耕作者が今からしなければならない作業を他者が間違ってやっても、ほとんど差し支えないので、さほど文句は言われない。

「田植え」
→これも本来の耕作者が今からしなければならない作業を他者が間違ってやってしまっているわけですが、よほど品種等が異ならない限り、謝ったらだいたい許してもらえる。

「稲刈り(※)」
→収穫物を取っていくということなので、これはもう、しこたま怒られる。
生産者が1年かけ、手塩にかけて育てたものを誤って収穫してしまうわけです。
その間違いに気づくのは数日後になることが多いので、その田んぼで生産されたお米そのものを返すことはかなり難しく、同量のお米を渡しても、自ら生産したものとは違うので、生産者の怒りを抑えることはできないのです。

※稲刈り…現在の稲刈りは、コンバイン等の機械で行うため、「刈取り→脱穀(稲の穂先からもみを分離すること)<コンバインの場合、同時作業>」、即座に大型乾燥施設に運搬して「もみの乾燥→出荷用のお米として袋詰め」と一連の工程で行われます。
大型乾燥施設に搬入する際には、収量(重さ)を量ってから、品種ごとに入れていきます。そのため、搬入後は、品種が同じであればいずれの土地のものも混在することになります。(小規模乾燥施設では、土地ごとの搬入も可能と思われますが…。)
よって、後日、誤って他の田んぼのお米を刈り取ったことが分かっても、その土地で生産されたお米を特定することは不可能に近いのです。

このことについて、八木社長は、「本当に稲刈りの時期は、何度謝りにいって、ひたすら頭を下げ続けたことか…」と述懐されています。

このままではいけない、何とかしないといけないと思っていた時に、あのトヨタ自動車からお声がかかります。「これから農業分野に活用できるソフト開発を行うので協力してほしい!」と。八木社長は、その「申入れ」を受け入れました。

そこでICT管理ツール「豊作計画」の誕生です!

農業分野に活用できるソフト、その名も「豊作計画」。

膨大な土地データを含め、あらゆるデータがこのソフトにインプットされています。この「豊作計画」には、いろんな機能が組み込まれていますが、際立って大きな変化をもたらしたのは、次の2つです。

まず1つ目。「土地間違い」の発生率の低下。

GPS機能で目の前の土地が、これから作業を行う土地か否かが一目瞭然に。作業者のスマホ1台で最大の懸念であった「土地間違い」はほとんど発生しなくなりました。

そして2つ目。農作業の進捗率等の確認。

作業中の土地は「緑」の表示、遅れが発生している土地は「赤」の表示といった具合に、スマホに映し出される土地の表示には色分けが施されています。

これを見ると、農作業の進捗率が一目で分かります。

さらに、この表示は、作業者全員のスマホで共有されていますので、作業が遅れているところには速やかな応援が可能になります。
また、作業時間等の数値情報を入力することにより、現状把握と課題問題点が浮かび上がり、今後の改善に向けての具体的な取組みもできるようになります。

このようなメリットがある反面、正しくデータが入力されないと「正確なデータ」にはなり得ないというデメリットもあります。本来と異なる数値のデータでは、今後の改善案もぶれてくることに繋がるのです。

ICT管理ツール導入当初、作業者は、作業開始時に「豊作計画」の開始等ボタンをタップすることをもどかしく感じたり、スマホで作業日報をつけることに戸惑いがあったりして、「入力すること」になかなかなじむことができず、実は、入力漏れ等が多発していたのです。

そこで、八木社長は一念発起。

社員に対し、プレゼンテーションを行います。

「スマホで入力することで作業分析ができるようになり、作業の効率化へつなげられる。ひいては、入力するデータで、お米の原価までも『見える化』することができる!」

と、社員に対し、その入力する意義と大切さを切々と説きました。

いくらICT管理ツールでデータの把握ができるようになったとしても、そのデータ入力を担うのは“人”なんです。“人”がどう動いてくれるかにかかっているのです。

八木社長の「新しい農業のカタチ」への熱い思いを胸に語ったこのプレゼンこそ、八木社長の「真骨頂」ではないでしょうか。

この後、社員は情報を共有化することの大切さを痛感し、入力率が格段に上がり、データの精度も急速に向上していったのです。
この勢いで八木社長は課題解決に着手していきます。
そして、その功績が認められ、平成28年度(2016年度) 天皇杯を受賞します。

ICT管理ツールを活用した効率的な大規模水田経営の実践”

有限会社鍋八農産は、「ICT管理ツールを活用した効率的な大規模水田経営の実践」ということで、平成28年度(2016年度) 天皇杯を見事に受賞しました。

以下、受賞時の農林水産省HPに掲載された内容からの抜粋です。

(有限会社鍋八農産は、)異業種交流会で作業管理の課題について話をしたことがきっかけとなり、作業管理解決のためICT管理ツール「豊作計画」をトヨタ自動車と共同で開発しました。

1日の作業計画をクラウドサービスで従業員に割り振り、従業員は作業指示やほ場位置図を確認し、作業を行います。作業の開始、終了が現場で入力されることでリアルタイムに作業内容が報告され、作業の進捗管理に役立っています。

また、以前は農機具や資材等が乱雑に置いてあることで作業に支障を来すこともありましたが、トヨタ生産方式(「見える化」「ジャストインタイム」)を採用し、農機具ごとの収納場所を決め、ネームプレートの設置や白線枠の表示をするなど整理整頓を徹底し、作業効率の向上を実現し、従業員1人当たり約23haの非常に大規模な水田を管理することが可能となりました。

でも、鍋八農産の八木社長は、これだけにとどまりません。

6次産業化にも着手したのです。

おにぎり屋さんを自ら経営

八木社長は、自ら生産した美味しいお米を食べてもらいたいという思いで、直営の「おにぎり商店 きはち」を始めました。

お米本来のおいしい味を保ったまま、生産者でないと出せない鮮度と味にこだわった「おにぎり」をお客様へ提供することにしたのです。さらに、おにぎりにはこだわり素材を使用。塩は「瀬戸内 藻塩物語」、海苔は地元産の「長島から直送された海苔」と、おにぎりのために厳選したものを使用しています。

また、鍋八農産の敷地内には「やぎさんちの台所」という加工場も設置しています。ここでは、お赤飯等はもとより、米粉使用のピザやシフォンケーキも作っています。作った料理はすぐ梱包して、近くのスーパーに出荷しています。生産から加工まで、いたるところに八木社長の「お米への愛情」を感じずにはいられません。

ICTを活用し、大規模受託を可能にしている“鍋八農産”。

地域の農業従事者は高齢化の一途をたどり、自ら耕作することが困難になってくるこれからの時代、その大きな受け皿となり、頼れる「鍋八農産」への期待は増すばかりです。

エコファーマーの認定も取得している「鍋八農産」。

今後、地域になくてはならない農業経営体としてのご活躍を願ってやみません。


有限会社鍋八農産のWEBサイト→https://ssl.nabe8.co.jp/


次回は、「新しい地域のカタチづくり」の視点から、都会から離島へ移住し、島の活性化に島民とともに挑んでいらっしゃる方の最新「ルポ」をお届けしたいと思います。

執筆者:椴 耕作(だん こうさく)

従事者の高齢化等で存続が危ぶまれる「地域の"農"の活性化」をモットーに、「新しい農業のカタチづくり」を目指す農業経営アドバイザー。活動の一環としてMANDY WORKSで農業や地方創生に関するコラムを発信中!

【資格・所属等】
CFP、宅地建物取引主任者、農業経営アドバイザー、農業簿記検定1級、NIE.E指導委員

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